大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所松江支部 昭和39年(ネ)41号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。鳥取県西伯郡大山町大山字上野原一四四番原野二二六、一一五・七〇平方メートル(二二町八反歩)及び同所一四七番原野六九六、一九八・三四平方メートル(七〇町二反歩)の各土地上の黒松、赤松、雑木等一切の立木は原告の所有であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも控訴証人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文第一項同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述並びに証拠の提出、援用、認否は、控訴代理人において、本件各土地上には土地買収処分以後に生育した立木は現存しないと主張したほかは原判決の事実摘示と同一であるから、これをここに引用する。

(立証省略)

理由

鳥取県西伯郡大山町大山字上野原一四四番原野二二六、一一五・七〇平方メートル(二二町八反歩)、同所一四五番山林二四八、九二五・六一平方メートル(二五町一反歩)は元控訴人の所有であり、同所一四六番原野四三三、五〇四・一三平方メートル(四三町七反一畝五歩)、同所一四七番原野六九六、一九八・三四平方メートル(七〇町二反歩)は元訴外大村甚三郎の所有であつたところ、右一四四番、一四五番の各土地及び一四五番地上の黒松が昭和二二年一〇月二日に、右一四六番、一四七番の各土地及び一四六番地上の黒松が同年七月二日に、それぞれ自作農創設特別措置法(以下自創法という。)の規定に基いて各所有者から国に買収され、いずれも同二五年五月一日国から被控訴人に売渡され、同二六年一〇月二六日各土地につき被控訴人に所有権移転登記がなされたことは当事者間に争いはない。

成立に争いのない甲第一、第二号証、同第三号証の二、三によれば、右一四四番ないし一四七番の各土地は自創法第三〇条第一項第一号の規定により国に買収されたものであることが認められる。

控訴人は、右一四四番、一四七番の各土地に存在する樹木はその土地の買収にかかわらず、依然として、旧土地所有者たる控訴人及び訴外大村甚三郎の各所有に属するところ、その後控訴人は同訴外人から同人の所有に属する樹木を譲受けたと主張し、被控訴人は、右二筆の土地上に存在する樹木の所有権は自創法の規定による買収処分により土地とともに国が買収したものであると主張するので審案する。

土地の上に生立する樹木は、それが立木に関する法律の適用を受けるものである場合又は取引にあたつて特に土地から独立させ、いわゆる明認方法が講ぜられたものである場合を除き、地盤たる土地の構成部分として、一個の所有権の客体をなすのであり、地盤の所有権が移転するときは地上立木もこれと一体をなすものとして、原則として地盤とともに移転するというのが一般私法上の原則である。ところで、(自創法の規定による)農地の買収は、行政処分であつて私法上の取引とは異るけれども、買収処分の前提となるべき私法上の法律関係自体は、買収にあたつても、これを承認せざるを得ない以上、明文ないし法の精神に反しない限りは、所有権の客体たる物件の収用を目的とする行政処分を規律する法の解釈としても、私法上の原則を適用することを妨げるものでないというべきである(最高裁判所昭和三〇年(オ)第六一七号、同三六年三月一四日第三小法廷判決、民集一五巻三号三九九頁参照)。

そこで自創法第三〇条の買収の場合は前記原則に対する例外をなすものであるかどうかについて考えなければならない。

自創法第三〇条、第三一条は、未墾地買収にあたりその土地の上にある立木を買収し得べきことを定め、同法施行令第二五条(昭和二五年一〇月二一日政令第三一六号により削除されるまでのもの)には、未墾地の上に生立する竹木のある場合にあつては当該土地の近傍類似の農地の時価に中央農地委員会の定める率を乗じて得た額と当該竹木の価格との合計額を超えてはならない旨規定している。これらの規定を通覧して考えれば、右法令において、未墾地の上に存在する立木については、その地盤たる土地の買収のほかに特にこれを買収の対象としていることが明らかであり、このことは、かかる立木はその存立する土地の買収によつては当然にこれに買収の効力が及ばないことを前提としているものと解することができるのである。そして、ここにいう立木とは、立木法により特に別個の権利の客体となつた樹木の集団又は特に明認方法を施して別個の権利の客体となつている樹木を指すものであり、このことは自創法が買収処分の対象としている一切のものは、土地、家屋、工作物等それ自体独立して権利の客体となり得るものについて定めていることからも明らかである。このことから考えれば、前記未墾地の上に生立する竹木とは、このような意味における立木を除いたその余の樹木を指すものと解すべきであることは自ら明らかである。そして、これらの竹木については、法はその生立する土地の買収処分からこれを除外すべきものとは何等規定するところなく、かえつて、かかる竹木は前記私法上の一般の原則に従い、その生立する土地の構成部分として土地の買収処分に包含されて、それとともに権利の移転を生ずることを前提としているものと認めなければならない。しかも、かかる竹木については、買収制度の本質にてらして見ると、国において特に買収処分の対象から除外しない限り、所有者の任意留保によつては、別の措置を採り得べからざるものと解さなければならない。

本件においては、一四四番、一四七番の各土地の上に存在する樹木につき、立木に関する法律による登記がなく、また、明認方法が施されていないことは当事者間に争いはない。

しかも、右二筆の土地の各買収令書(前顕甲第一号証、同第三号証の二)には、地上の樹木を買収から除外する旨の記載がなく、そのほかに、買収にあたつて国が特に地上の樹木を除外する旨のかくべつの措置を講じたことを認めるべき資料がない。もつとも、原審並びに当審における証人井沢百伸の証言中に、国は右二筆の土地の買収に際し特に地上の樹木を買収から除外することを表示した趣旨に解される部分があるが、反面、国からは土地と地上の樹木を区別して買収したことの告知はなされていない旨の証言部分があること、右証言及び当審証人秋本栄の証言を総合すると、証人井沢百伸は右土地の上にある樹木が国に買収されたかどうかについて重大な利害関係を有する者であることが認められること、および、原審証人小谷三男、同小倉俊男、同永松三衛の各証言に照らし、とうてい措信し得ない。また前顕甲第二号証、同第三号証の三、成立に争いない甲第九号証の一二、同第一七ないし第二〇号証により認め得る事例をもつて未だ右二筆の土地の上に生立する樹木が買収処分の対象から除外されたものと認定することはできない。

なお、樹木の生立する土地の買収につき、その買収対価の算定上、地上の樹木が相当の価格を有するにもかかわらずこれを考慮されていない場合には、土地の買収処分の効力は右樹木に及ばないものと解する余地があるように思われるので検討する(最高裁判所昭和二九年(オ)第五六五号、同三三年二月一三日第一小法廷判決、民集一二巻二号二二七頁、前掲最高裁判所第三小法廷判決の少数意見参照)。

前顕甲第一、第二号証、同第三号証の二、三によれば、地上の黒松を別個に買収された一四五番、一四六番の各土地も、そうでない一四四番、一四七番の各土地も、一反歩(九九一・七三平方メートル)当り金三〇円二四銭で国に買収され、一四五番地上の黒松立木三三七・九五石は一石当り金二〇円八〇銭、一四六番地上の黒松立木一二、〇八七・二三石は一石当り金二〇円八二銭で買収されたことが認められる。また、成立に争いない甲第四、第五、第七、第八、第一〇、第一二ないし第一四、第一六号証、同第一五号証の一、二、三、原審証人小谷三男、同森脇源八郎の各証言、当審証人秋本栄の証言、原審並びに当審証人伊沢百伸の証言、原審の検証の結果(第一、二回)を総合すると、右一四四番ないし一四七番の各土地上にその買収当時黒松、赤松、雑木等が生立していたことが認められる。しかしながら、右四筆の各土地毎に買収当時その土地上に生立していた樹木の種類、数量、価値については、原審並びに当審証人伊沢百伸の証言部分及び当審証人秋本栄の証言部分はいずれもその一部に関するもので不正確であり、かつ、その証言によれば、同証人らは右土地上に存在する樹木の所有権の帰属について直接利害関係を有することが認められるので俄かに措信し難く、他にこれを認定するに足りる証拠がない。また、右各土地の買収単価金三〇円二四銭については、これを定めた基準殊に各土地上に生立する樹木の価格をどの程度考慮されているかを明らかにできるだけの資料は存しない。しかし、これがために樹木の対価が支払われなかつたことにはならない。一四五番、一四六番の各土地上の黒松は土地と別個に買収されているが、その土地上には黒松のほかなお相当量の樹木が生立しているのであるから、土地買収単価金三〇円二四銭が土地の価格だけを基準にして算定したものであるとは言えないし、一四四番、一四七番の各土地についても、その買収対価が土地の価格だけから算出されたものであると認定することはできない。むしろ、一四四番、一四七番についてはその土地上の樹木(竹木)を、一四五番、一四六番については黒松以外の樹木(竹木)を、それぞれ含めた土地の価格を算定し買収対価としたものであると解するのが相当である。そして仮りに、一四四番、一四七番の買収対価が不当に低く、その額に不服があるならば、自創法第三四条、第一四条により増額の請求をすべきであつて、これがために右二筆の土地上の樹木が買収の対象にならなかつたと結論することはできないものといわなければならない。

結局、一四五番、一四六番の各土地については、国が自創法第三〇条による土地の買収と別個に特別の配慮からその土地上にある黒松立木を買収したが、一四四番、一四七番については、国は地上の樹木を土地と一体をなすものとして土地を買収したものと解さざるを得ないのである。

そうすると、一四四番、一四七番の各土地上に生立する立木が国により買収されていないことを前提とする控訴人の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく失当として棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当で本件控訴はその理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九五条を適用して主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例